−よく耳にするのによく知らない
 「はり・きゅう」の基礎知識−

鍼灸医療推進研究会


古くて新しい「鍼灸」のこと


 世界中で都市化が進み、ストレス、アレルギー、慢性疲労など、先進国特有のトラブルや生活習慣病が蔓延しています。薬物投与や外科治療で対処してきた西洋医学では治せない、病気ではないけれど、「何となく不調」。そんな症状を訴える人々が、子どもから高齢者まで、幅広い年齢層で増加しています。
 慢性疲労社会のなかで、古くからの医療が見直され始めていますが、なかでも東洋医学の中核を成す治療法「鍼灸」は世界中で注目され、「鍼灸」のメカニズム研究も各国で進められています。
 古くて、現代人にとって新しい「鍼灸」のことをもっと知りたい!
 おばあちゃんおじいちゃんの世界と思われていた「鍼灸」は、今、新たなステージを迎えつつあります。
 


鍼灸ABC


鍼灸の考え方
 西洋医学と、東洋医学である鍼灸ではベースとなる考え方が全く異なります。
 鍼灸は、身体をひとつの小宇宙としてとらえ、そのバランスの崩れたときに「病」が発症すると考えます。たとえば鍼灸では臓器そのものを直接治療するのではなく、臓器の機能を遠隔操作によって治療します。言い換えれば、外科医は心臓が悪いと心臓にメスを入れますが、手や足を触ったりはしません。鍼灸では、足や手など離れた場所に鍼や灸を施すことで、心臓の機能回復をはかるのです。
 レオナルド・ダ・ヴィンチなど解剖学から発達した西洋医学と、身体の表面(皮膚、舌など)を微細に観察して生まれた東洋医学とは、始めから異なる医学であったのは確かです。


鍼灸の仕組み
 鍼灸で刺激すると、中枢神経内にモルヒネのような役割をもったホルモンが放出されます。この物質(内因性オピオイド)が、痛みを抑え、また痛みを脳に伝える神経経路をブロック。脳から、そして脊髄からの痛み抑制のダブルブロックで、痛みを緩和します。鍼灸が痛みを緩和する効果が高いのも、このメカニズムが働くからです。また、神経を刺激して血行を促進し、痛みの原因となる物質を老廃物として流してくれます。
 痛みに対する効果だけでなく、自律神経が支配する胃腸などの内臓や、血圧などにも作用して、機能を調整しバランスを整えてくれます。
 最近の研究では、免疫系や内分泌系への効果も期待されて、さまざまな研究が進んでいます。鍼灸による免疫力の向上、アンチエイジングなど、より幅広い効果が期待されています。


鍼灸は、紀元前の中国で生まれた治療法
 鍼灸の起源は石器時代にまで遡るともいわれますが、紀元前の中国王朝、殷・周時代にはすでに鍼治療が広く流行したという文献が残っているそうです。
 その鍼灸が日本に渡ってきたのは、奈良時代。中国の僧侶が仏典とともに鍼灸の医学書を携えてやってきたとされています。「漢方」が渡来してくるのもこの時代です。
 平安から室町時代にかけて、書物を通してだけでなく、人的交流も盛んに行われて、鍼灸や漢方といった中国医学が日本社会に定着していきます。
 江戸時代に入ると、鎖国によって大陸との国交も途絶えますが、鍼灸は日本人研究者により、日本の伝統医学として独自の進化を遂げていきます。また、中国では下火になった「灸」が、庶民の間に広まっていくのも、この時代です。
 鍼灸や漢方の立場が変わったきっかけは、杉田玄白の『解体新書』の登場でしょう。当時の日本人にとっても、日本医学界にとっても、オランダ医学は驚異的だったはずです。その後、明治政府の西洋化政策によって、鍼灸や漢方などを主流とする日本の伝統的な医学は、表舞台から追いやられてしまうこととなります。
 昭和に入ると、伝統医学の見直し運動が起きますが、やはり、西洋医学の台頭に、鍼灸は民間医療としての地位に甘んじることとなります。
 しかし、その後も民間での支持は強く、鍼師、灸師は国家資格として制定されることになりました。これにより鍼灸の教育制度はさらに充実し、教育を基盤に鍼灸も新しい時代へ突入します。
 各国の伝統医療が見直されている昨今、鍼灸は最も優れた伝統医療として、世界各国の医療関係者が、そのメカニズムと研究成果を発表。日本でも、従来の腰痛や肩こりといった、一般にもなじみの深い症状だけでなく、スポーツ、免疫、ストレスなどさまざまな分野での治療への取り組みがなされています。
 約2000 年前に確立し、1500 年もの間、日本、そして世界で進化し研究が続けられてきた「鍼灸」は、無限の可能性を秘めた治療法だといえそうです。


鍼(ハリ)を打つ、お灸をすえる、「ツボ」って何??
 鍼を打ったり、お灸をすえたり、指圧やあんまをする経穴(けいけつ)(ツボ)。何となく知ってはいるものの、「どうしてツボなのか、どうしてツボをおさえると身体が軽く感じるのか」。それは、東洋医学の理論に基づいた治療法だからです。東洋医学では、“気血(きけつ)は経絡を通り、全身の元気を司る”と考えます。この気血の通り道、経絡が何らかの作用で滞ることで、病に到るといわれます。経絡が滞らないように、また、滞った経絡を改善するために、経絡の各所にあるポイント、経穴に鍼や灸、指圧を施して、気血の流れをスムーズにします、これがツボの役割です。


鍼灸治療のベース「経穴(ツボ)」が世界統一基準に
 鍼灸は2000 年以上の長い歴史があるだけに、ツボについて国によって名称や位置に違いが生じてきました。世界的に東洋療法への関心が高まる中、WHO(世界保健機関)がこの問題に関与し、1989 年に名称が統一され、2006 年の国際会議で361 穴の位置が決まり、統一されました。
 国際統一ができたことで、日本でも鍼灸の教科書で約40 ヶ所のツボの修正が必要になりますが、これは、これまでのツボの位置が間違っていたということではありません。ツボの国際統一は、各地でさまざまな影響を受けて、位置や名称にズレが生じていたものを標準化し、座標を整えたということになります。医学的な研究や臨床比較を推進するためのスタートです。


鍼灸の治療の仕方
【鍼】(ハリ)
 鍼治療では、通常直径0.12mm. 〜 0.18mm 程度の極めて細いステンレス製の鍼をツボに刺入します。刺入するときは、管鍼法といって円形の金属あるいは合成樹脂製の筒を用いる方法か、筒を使わずに鍼を親指と人差し指でつまんで刺入する方法が行われていますが、どちらも殆んど無痛に近い方法です。
 ツボに刺入した鍼は、上下したり回したり、振動させるなどの一定の刺激を加えて直ぐに抜く場合と、10 -15 分程、刺入したまま置いておく場合があります。また、刺入した鍼に微弱な低周波パルス通電をする場合もあり、これは筋肉のコリや痛み、血液循環の促進に効果があります。
 他にも刺入せずに皮膚に接触させたり押圧させたりする方法もあり、これらは小児鍼として乳幼児の夜尿症や夜泣きなどに効果があります。
 
【灸】
 一般的に「やいと、お灸」と呼ばれているのが、艾(もぐさ)を用いてツボに熱刺激を加える方法です。もぐさは、よもぎの葉を乾燥させ、葉の裏側の部分だけを集めたものです。灸の方法には、大きく分けて、もぐさを直接皮膚上に乗せて着火させる直接灸と、皮膚との間を空けて行う間接灸とがあります。直接灸の場合、もぐさの大きさは糸状のもの、米粒ほどの細かいものが主流で、病状に応じて熱刺激を与えます。直接灸をした後は、少し痕が残ったりすることがあることも予め承知しておく必要があります。
 間接灸は、もぐさと皮膚の間に空間を作ったり、味噌や薄く切ったしょうが、にんにくなど、熱の緩衝材になるものを入れたりして熱さを和らげていますので、比較的気持ちがよいものです。
 この他にも、灸頭鍼といって、刺入した鍼の先端にそら豆ほどの大きさのもぐさを取り付けて点火する方法や、熱の刺激源として遠赤外線やレーザー光線を使用する科学的な試みも実用化されています。灸は鍼灸師の指示に従えば自宅でも行うことができます。


鍼灸の補助療法
 鍼灸院では、症状によって遠赤外線照射や低周波通電、吸い玉、テーピング、予防体操などの指導を行う場合もあります。
 
○ プラスチックの鍼管が付属された鍼。鍼柄の色で鍼の太さが分かるようになっている
○灸頭鍼
○ 手軽なタイプのお灸もある
○ 円皮鍼
○ 皮内鍼




■世界各国で注目される東洋療法
東洋療法を行うには国家資格が必要
 日本はもとより、世界で期待される東洋療法としての鍼灸ですが、鍼灸の施術を行うには国家資格が必要です。通常、高等学校を卒業後、鍼灸専門学校、鍼灸大学や鍼灸短期大学などの教育機関で3 年以上の間に、知識や技術を習得し、さらに国家試験に合格しなければ資格を得ることができません。
 また、日本で国家資格を持っていても、その国の規定に沿って免許を取得しなければならず、外国で施術を行うことはできません。
 2007 年春に行われた国家試験は、鍼(ハリ)師は受験者5,275 人のうち合格者4,068 人( 合格率77.1%)、灸師は受験者5,261 人のうち合格者4,416 人(合格率74.3%)という結果だそうです。一定の教育期間を経ても必ず国家試験に合格できるわけではない、厳しい資格であることが分かります。
 この5年間で鍼灸国家資格を受験する人の数は約1.7倍に増えています。
 鍼灸専門学校には、高校卒業後の進路として選ぶ人たちの他に、大学卒業後や社会人経験の後に、「専門性の高い職業として」、或いは「社会貢献ができる技術を身に付けたい」など、様々な抱負をもって鍼灸師をめざす人たちが増えているそうです。

多様化するニーズに応える高度な教育制度
 東洋療法としての鍼灸は、NIH(アメリカ国立衛生研究所)の会議で一定の範囲における鍼治療の有効性が発表されるなど、代替治療としてはもちろんのこと、健康意識の高まりから予防医学としても益々注目されています。
 こうして、地域医療や老人医療、スポーツ医療など新たな職域へと活躍の場が広がるなか、多様化するニーズに対応できる鍼灸師たちの育成が急務となっています。鍼灸の教育機関では、新しい時代のニーズに応え社会に貢献できる優秀な鍼灸師を育成するために、カリキュラムの充実、教員の資質向上、学術振興など、教育の質と東洋医学の向上に邁進しています。特にカリキュラムについては、東洋医学はもちろん、病態生理学や解剖学、臨床医学など、西洋医学の基礎もしっかりと学ぶ構成の他、医療に携わる人としての知識や教養を身に付けられるように組まれています。

鍼灸師、鍼灸を学ぶ学生たちの社会貢献活動
 新潟中越地震、能登の地震などでは、地域の鍼灸師会に所属する鍼灸師たちがボランティアとして活動しています。避難場所の体育館、仮設住宅を訪ね、被災した人たちに鍼灸の施術を行うと、心身共に疲れ果ててしまっている方たちは、大変喜んでくださるのだそうです。鍼灸施術のボランティア訪問は、新潟中越地震から1 年間以上にわたって続いたそうです。
 また、近年では国民体育大会や各地で行われるスポーツイベント会場でも、地域の各師会が交替で担当し、鍼灸コーナーを設置して施術のボランティアを行っています。現在のスポーツ医療での鍼灸への意識の高まりも、このような地道な活動が基盤となっていると考えられます。

欧米の主要メディアが発信する 鍼灸NOW!
 医療保険制度の違いもありますが、ヨーロッパやアメリカでは、病気にならないための自己防衛策として、代替医療が盛んです。また、仕事のために体調を整える、体力や免疫力を高める、アンチエイジングの一環として身体の機能を高めるなど、さまざまな予防策として鍼灸が活用されています。
 例えば、俳優が体力維持のために鍼灸を受けているとか、有名プロゴルファーが手首の治療と予防に鍼灸に通っているなど、セレブリティが鍼灸をライフスタイルに取り入れていることが、テレビや新聞のニュースで話題となっています。
 また、医療研究者が鍼灸の効果を、さまざまなエビデンスをもとに研究発表していることも、鍼灸普及の要因です。東洋医学を東洋医学だけで理解するのではなく、西洋医学的見地で実証することで、鍼灸の重要性を訴えているのです。
 伝統的な医学のなかでも、世界中で信頼を得ている鍼灸。世界の医療現場で欠かせぬ治療法として、確立されていくことは確かでしょう。

Worldwide 鍼灸世界の鍼灸トピックス
“膝と腰の関節炎による痛みや運動制限に対して、鍼治療が効果があるかどうか、ドイツの研究「鍼治療による関節炎の痛みと運動制限に対しての効果の科学的検証」論文が発表されました” (タイムス紙)

“鍼治療、運動療法、リラックス法による片頭痛の治療効果を検証した研究がスウェーデンの研究グループによって発表されました。その結果、痛み止めの薬を用いることなく、それぞれの方法を活用することで、片頭痛の症状が改善されたということです”(ロイター、CNN )

“人気ドラマ「Sex and the City」の主演、クリスティン・デービスさんが、鍼治療を日常的に取り入れることで、多忙なスケジュールにも関わらず、体調を維持している。超多忙スケジュールのために健康に不安を覚えた彼女は、「健康維持のために鍼を取り入れたのですが、鍼はもはや私の生活の一部です」という。”(タイムス紙)

“プロゴルファーのミッシェル・ウイーが、持病の手首の痛みをコントロールするために、鍼治療を取り入れている”( ボストン・グローブ紙、ガーディアン紙、NBC スポーツ)

“癌と闘うロックバンドのギタリストは、治療に鍼を取り入れて、癌と闘っている”
(ブルームバーグ)

“ペットを対象とした鍼治療が広まっている”(ワシントン・ポスト紙、FOX ニュース)
“北アイルランドでは、鍼治療、ホメオパシー、マッサージ治療など代替医療を健康保険の適用に”(BBC)

資料提供: 月刊『医道の日本』掲載「世界メディアが伝える鍼灸最新動向」(中田健吾、藤田康隆)より



■鍼灸の効果
鍼灸といえば、肩こりや腰痛を連想
 「ハリ」や「お灸」といえば、やはり祖父母の肩こりを思い出す人も多いはずです。
 確かに鍼灸を受ける人の多くの症状は、首、肩、腰、ひざなどの疾患に伴う痛みです。しかし、私たちが知らないだけで、実は鍼灸は、運動器系の痛みだけでなく、消化器系疾患、呼吸器系疾患、循環器系疾患から小児疾患など、さまざまな症状に効果があるといわれています。

ストレスによる不調の改善も 鍼灸の得意ワザ
 家事や仕事のストレスに加えて、パソコン使用による眼性疲労や長時間同じ姿勢をしているためによる疲労など、環境疲労やストレスが、さまざまな症状を引き起こしています。何となく身体がだるい、寝つきや寝起きが悪い、ぐっすり寝た感じがしない、食欲がないなど「病院に行くほどではないけれど、絶不調!」という人が多くなっているようです。そんな身体の不具合を整えて、元気を取り戻すのも、鍼灸の得意とするところ。病気を予防する、病気にならない身体を作る、それこそ、これからの社会が求める医療。鍼灸は、新たな医療として、大きな可能性を秘めているのです。

NIH(アメリカ国立衛生研究所)が鍼の有効性を確認
 ヨーロッパやアメリカで浸透し始めた鍼灸療法。1997 年には、NIH から、鍼の有効性に関する見解が発表されました。鍼灸療法の病気に対する効果とその科学的根拠が認められ、西洋医学の代替医療として、有効であると発表されました。
 WHO(世界保健機関)でも、様々な症状や疾患について鍼灸療法の有効性を認めています。


< 鍼灸が効果的な症状や疾患>
★運動器系疾患
肩こり、五十肩、腰痛、頸椎症、変形性膝関節症、腱鞘炎、テニス肘etc.
★消化器・呼吸器系疾患
便秘、下痢、痔疾、慢性胃炎、食欲不振、気管支喘息、鼻炎、感冒、扁桃炎etc.
★疼痛性疾患
頭痛、坐骨神経痛、術後疼痛、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛etc.
★循環器系疾患
低血圧症に伴う諸症状、冷え性、本態性高血圧症etc.
★泌尿器& 産婦人科系疾患
月経異常、更年期障害、逆子、不妊、インポテンス、失禁症etc.
★感覚器系疾患
仮性近視、眼性疲労、メニエール病、耳なり、難聴etc.
★小児疾患
夜尿症、小児神経症、消化不良etc.
★その他
不眠症、肥満、自律神経失調症、片麻痺、顔面神経麻痺、アレルギー疾患etc.
   社団法人 日本鍼灸師会資料より



鍼灸の可能性

■ 私たちと鍼灸〜治療から未病へ〜
 進む高齢化と共に、医療は社会にとって大きな課題となっています。健康保険の見直し、医療保険の負担増、高齢者の新たな医療負担など、私たちの暮らしに直結する変化が始まっています。そして、高齢化= 長寿社会の中で求められているのが、病気になる前に治す、あるいは病気にならないための医療です。それは、東洋医学が理想としてきた姿です。
 ライフスタイルは多様化しても、健康で生き生きと暮らしたい、という願いはほぼ万人に共通であるといえるのでしょう。
 「未病治」という東洋医学の基本が、これからの日本社会を大きく変えていく―東洋医学の治療法、鍼灸の古い伝統と新しい研究がもたらす大きな可能性。その可能性を探ります。


スポーツ鍼灸
 スポーツ鍼灸は、スポーツの世界での鍼灸治療から始まりました。筑波大学で1988 年に始まった“スポーツ医科学プロジェクト”の一員であり、その後、筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学専攻で教鞭をとる、宮本俊和准教授に、スポーツ鍼灸についてうかがいました。

障害の早期回復に効果
「スポーツ鍼灸は、ケガをしたアスリートに鍼灸治療を行うことで、腰や膝などの痛みを軽減し、スポーツ現場への復帰を早めたり、練習や試合などによる疲労を回復したりすることを目的として生まれたものです。でも、今やアスリートだけでなく、健康保持増進を目的に行う中高齢者や介護の必要な高齢者の方々まで、幅広い分野に拡大しつつあります」
 アスリートの世界でのスポーツ鍼灸は、@スポーツ競技による外傷や障害の治療や手術後のリハビリテーション、Aスポーツによる疲労の早期回復、B競技能力の向上という3つが大きなテーマです。アスリートの治療を行いながら、スポーツ疾患の原因と治療過程を研究していくうちに、これはスポーツ選手だけにとどまらず、一般の人々の運動や、歩く、階段を上る、立つ、座るなど、人間の日常生活に深く関わるテーマであるということが明らかになっていきます。
「スポーツ選手がケガをした場合、まず温めたり冷やしたりなどの物理療法を行います。しかし、中には手術をする選手も出てきます。手術後はスポーツに復帰するまでのリハビリに入ります。鍼灸治療はこのリハビリの段階でも復帰を早める目的で行います。骨折、捻挫などで動かないでいると廃用性筋萎縮が始まります。これらの鍼治療の目的は、寝たきりの人たちの治療にも応用可能です。最近、中高年の登山が人気ですが、もし鍼灸師が登山に同行できれば、膝や腰の痛みをやわらげて、翌日の山歩きをラクにこなすことも可能です。またスポーツ選手の中には、コンディション調整のために大事な試合の前に鍼を受ける人もいます。一般の健康な人に対してもコンディションを調整し、健康な日常生活を過ごすためにも鍼灸治療は有効です。鍼灸の可能性はどんどん広がって行きます」

病気の未然予防が東洋医学の基本
 医療は、病気を治すことに終始するだけでなく、早期発見、早期の治療へ。そして今、病気を未然に防ぐために、健康な人間も半健康な人も病気にならないことを重視する時代に入りました。
 「西洋医学は、基本的には、病名に基づき治療をします。しかし、東洋医学は“未病治”といって、病気を未然に防ぐという考え方が基本にあるわけです。健康な人や半健康な人が医療対象となった現在の状況は、西洋医学の考えより東洋医学の考えに近づいています。私たちは、筑波大学という医学と体育、そして鍼灸を専門とする教員が同じキャンパスにいるというメリットを生かして、スポーツという特殊なジャンルの治療・研究を行ってきましたが、これが、実は一般の人々の日常生活と重なってきているのです」
 アスリートたちの鍼治療を部位別で比較すると、圧倒的に多いのが腰部。次に大腿部、肩関節、膝関節、下腿、足関節、頸部と続きます。
 「一般の患者さんたちも、腰の痛み、肩こり、五十肩、膝痛などで、鍼治療を受けていますが、アスリートと治療部位はほぼ同じです。大腿部の肉離れなど特殊な部位ももちろんありますが。できるだけ健康で長生きするためには、バランスのとれた“栄養・休養・運動”が必要です。そのために、ウオーキングをしたり、山登りをしたり、運動を心がけて、元気に暮らしたいと思っている人が増えています。しかし、中高齢者のほとんどが五十肩、腰痛、膝痛などを抱えています。これらの痛みを予防し、痛みを最小限にして、運動を続けるように応援するのもスポーツ鍼灸の役割です」
 宮本先生は、スポーツ鍼灸は決して特殊な世界の治療ではなく、私たちの日常生活と密着したものになる可能性があると考えています。
 「ウオーキングや山登りを楽しむためにも、鍼灸治療をもっと活用していただければ、と思います。また、鍼灸師もお灸やセルフマッサージ、ストレッチ、アイシングなど、自宅でできるセルフケアプログラムを患者さんのために作成し指導するなど、工夫が必要ですね」
 
プロフィール
宮本 俊和(みやもと としかず)先生
筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授。(筑波大学理療科教員養成施設併任)全日本鍼灸学会スポーツ鍼灸委員会委員長。
1984 年より筑波大学陸上競技部での鍼治療。1988年より筑波大学スポーツクリニックでの鍼治療。長野オリンピック、パラリンピックでの鍼治療。現在、スポーツ領域での鍼治療の効果を臨床と基礎の両面から研究している。
著書: 「スポーツ傷害のハリ療法」(医道の日本社)「スポーツ鍼治療マニュアル」(南江堂)、ビデオ: 「スポーツ障害の診かたと治療」(ジャパンライム)、DVD:「スポーツ障害を治す 早期復帰の鍼治療とリハビリテーション」など。


※以上、鍼灸FACT BOOK (しんきゅう ファクトブック) より抜粋


−よく耳にするのによく知らない「はり・きゅう」の基礎知識−

第1版 2007年9月発行
発行  鍼灸医療推進研究会
制作:(株)ジャパンピーアールビジョン
資料協力:(株)医道の日本社、森ノ宮医療学園 出版部
写真提供:セイリン(株)、(株)釜屋もぐさ、(株)カナケン

■ 鍼灸医療推進研究会 概要
 鍼灸医療推進研究会は、鍼灸医療に携わる組織が協力して設立した任意団体で、鍼灸医療への理解を広めるためのコミュニケーション活動を推進しています。

■ 鍼灸医療推進研究会 加盟組織
(社)日本鍼灸師会
〒170-0005 東京都豊島区南大塚 3-44-14
Tel:(03)3985-6771  Fax:(03)3985-6622
ホームページアドレス:http://www.harikyu.or.jp/

(社) 全日本鍼灸マッサージ師会
〒160-0004 東京都新宿区四谷三丁目12-17
Tel:(03)3359-6049  Fax:(03)3359-2023
ホームページアドレス:http://www.zensin.or.jp/

(社) 全日本鍼灸学会
〒170-0005 東京都豊島区南大塚 3-44-14(日本鍼灸会館内)
Tel:(03)3985-6188  Fax:(03)3985-6135
ホームページアドレス:http://jsam.jp/

(社)東洋療法学校協会
〒105-0013 東京都港区浜松町1-12-9 第1 長谷川ビル4F
Tel:(03)3432-0258  Fax:(03)3432-0263
ホームページアドレス:http://www.toyoryoho.or.jp/index.php



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